「まず、事件が起きたのは日曜日。掃除係の文さんは休みだったはずだが、防犯カメラには清掃服を着た人間が倉庫に入っていく映像が残っている」

「そうだ……私が文さんに言ったのに、すっかり見落としてたわ」

りぃがあちゃーと、額に手を当てる。

「その流れなら、文さんを疑うところだが、文さんは膝を痛めている。だから、一人であの鏡を持ち上げて割る事は不可能だ」

「あれ、装飾の重みもあって、ざっと20kgくらいあるよ」

「空の言う通り、それを文さんが持ち上げるのは無理だ」

ただでさえ膝を痛めてる文さんには、出来ない事だ。それに、成人男性でも20kgを持ち上げるのは骨が折れる。

「なら、あの掃除係は誰だと言うんだ」

りぃのお父さんが眉間のシワを深くしてそう言った。

──早く答えを知りたいんだろうな。

でも、いつもなら早く終わらせようとする拓海先輩には珍しくもったいぶっているようだった。

何を考えてるんだろうと、拓海先輩の横顔を見上げてみても、その考えは図れない。

「鏡が割られた時、カメラにも映ってたがレオンが倉庫で犯人と鉢合わせしても吠えなかったのは知っているな?」

「え、はい。でもこの子、基本的に人見知りしないし……」

りぃがどうしてそんな事を聞くのだろうと、不思議そうに答える。

「犬は本来縄張り概念が強い生き物だ。見知った人間ならともかく、悪意を持った他人が縄張り内に入れば、どんなに温厚な犬もアクションを起こす」

「じゃあどうして、レオンは吠えなかったんですか?」

不安そうなりぃの顔。多分りぃも拓海先輩が言ったように、今日関わった人たちの中に犯人がいると、察したのかもしれない。

ジワジワと胸に不安がこみ上げてくる。みんないい人たちばかりだったのに、故意に鏡を割るような人たちには思えないのに。どうして、という気持ちだけがグルグル回る。