廊下の終わりが見えてきた私は、そこでレオンを追い詰めようと決めた。しかしレオンは、まさかの方向転換をして、廊下の途中で右に曲がる。

「ワウ――ンッ!!」

そこにはバルコニーがあり、その後を追って出ると、雄叫びを上げて今まさに、手すりの向こうへとダイブしていた。

「……えっ!?」

犬って、2階から飛び降りても平気なんだろうか。ってそうじゃなくて、花の装飾を奪取しなくては。自分のやるべき事を思い出して、迷わず走る。

「ま、待って!!」

「バカ、危ない!!」

拓海先輩の、呼び止める声が聞こえた。でも、加速していた私は止まれない。

手すりがお腹に当たり、つんのめるように体が前へ傾いた。

「わぁぁぁぁっ!!」

眼下に、白亜の噴水やら、女神を象った銅像やらがある広大な庭が見えて、恐怖で叫ぶ。

──私って犬運ないかも、主にゴールデンレトリバー。

まるで、走馬灯のようにクラウンに飛びかかられた時の記憶が蘇る。さよなら、私の16年間。目にキラリと涙が光りそうになった時、落ちそうになった体が重力に逆らってグンッと後ろへ引き上げられた。

「えっ……」

「来春!!」

お腹に回る腕が、私を引き上げてくれたのだと気づく。その勢いで私を助けた誰かも一緒に、バルコニーの地面へと尻餅をついてしまった。

「た、助かった……っ」

「こんの……バカが!!」

振り返れば、切羽詰まったような、鬼の形相で怒る拓海先輩の顔が間近にあった。

「た、拓海先輩!?」

──なぜここに?

もしかして、拓海先輩が助けてくれたのだろうか。沢山の疑問と動揺に言葉を失う。でも確かに、私を抱きしめている腕は拓海先輩のものだ。