『うぅ……う……』
「ひっ」
呻き声が聞こえた気がした。恐怖で指先から凍りつくように、体温が下がっていくのを感じる。深淵の闇が、底なしの恐怖心を掻き立てる。
「い、いいい今の聞こえましたか?」
「空耳だと思ったけど、来春にも聞こえてるなら現実みたいだね」
奥歯がカタカタと震える。空くんにも聞こえてるって事は、この怪奇現象、現実に起きてるんだ。
『うぅぅ~……』
「ひぇぇぇーっ」
半べそかきながら、私は拓海先輩の腕にしがみつく。拓海先輩の体温を感じると、少しだけ安心できた。
『うぅ……う……うぅぅ~……』
「ひやぁぁぁぁあっ!!」
──もうダメ、殺されるぅぅぅっ!
うめき声を上回る悲鳴を上げた。その瞬間、ポカッと頭を叩かれる。
「騒ぐな、鼓膜が破れる」
「そんな無茶な!どうして2人とも平気なんですか!?」
拓海先輩にチッと舌打ちされる。
「来春の悲鳴の方が怖いよ」
「ううっ、空くんまで……」
幽霊が平気な人にはわからないんですよ、この怖さは。なのに拓海先輩も空くんも取り乱すことなく平気そうだ。
「……馬鹿らしい、茶番だな」
「え?」
「よく聞いてみろ、この呻き声、繰り返してる」
「嘘……」
拓海先輩に言われて耳を澄ます。すると、全く同じタイミングと長さで唸っており、一度途切れるとまた、同じ呻き声が繰り返されていた。
確かに、周期してる。それに気づいた途端、嘘みたいに恐怖が引いていった。