「うぅっ……」

じんわりと瞳が潤み、今にも泣きだしそうだった。

「おい」

ふいに、あたたかな空気が身を包んだ。耳元で聞こえた声に体がビクリと跳ねる。

「えっ……拓海、先輩……?」

「……大丈夫だ」

拓海先輩の、聞いた事も無いような優しい声。顔が見えないからなおさら、声の違いに気付けた。もし、あの無表情な顔を見ながら聞いていたら、私はきっと、その表情に騙されていただろう。

「怖いなら、さっきみたいにしてろ」

「さっき……」

それって、私がしがみついてた時の事だ。そっか、拓海先輩は傍にいていいって言ってくれているのだ。その意味に気づいた時、胸のあたりがポカポカしてくる。

「ふふっ、ありがとうございます……」

ズッと鼻水をすすって笑えば、「泣いたり笑ったり……忙しいヤツ」と呆れられる。

その呆れの中に、優しさがほんのり混じっている。腕を探るように手を伸ばせば、逆に手を掴まれて腕へと誘導された。その仕草にトクンッと胸が鳴る。

なんでかな、拓海先輩の傍は息苦しくて居心地がいい。そんな意味不明な感情が湧いた、そんな時だ。