今日から、人生初のバイトを始める。
勤務日数、週5日。
勤務時間、午前9時から午後21までのシフト制。
なお、依頼に合わせて時間変動あり。
時給は1000円。
学校がある日は、終わってからのバイトになってしまうけれど、高校生にしてはなかなかの好条件だと思う。
「よい、しょ」
自室の勉強机の上に置かれた卓上の鏡を覗き込むと、私は両方の耳上の髪を慣れない手つきで掬い、髪を後頭部でまとめる。
そこに花のヘアクリップをつければ、この間たまたま駅前の書店で見つけて、たまたま立ち読みしたティーンズ雑誌で見つけた今流行りのハーフアップの髪型が完成する。
「……ただの、バイトだから」
鏡に映る自分の緩みっぱなしの顔に言い訳しながら席を立つと、今度は部屋の扉のすぐそばにある全身が映る鏡の前へと立ち、身にまとった春物のワンピースを見つめた。
どこかのモデルにでもなったかのように、調子に乗ってターンをすると、誰も見ていないのにニコリと笑ってみる。
「た、ただの……バイ……」
もう一度、自分の顔を鏡で確認する。
いつもより広く引いたアイライン。クルンっと上がったまつ毛に、塗りたくられたボリューミーなマスカラ。
最後に主張するように、プルンッとしたグロス付きの唇。
──白状します。
「嘘です、ごめんなさい!」
だって、ただのバイトも噂の先輩がいるとなると話は別だ。気合いが入るのは女の子としては至極当然で、つまり確信犯なわけなのだが……。