彼は私からごく自然にカバンを奪うと、隣を歩き始めた。


「お弁当、作ってきたよ。でも、あんまり期待しないでね」

「え? 相当期待してるけど?」


彼は鼻で「ふん」と笑う。


「いいもん。いらないなら私食べる」

「いらないなんて言ってないだろ。もう腹が弁当モードになってるってのにさ」


真顔で焦る彼がおかしくてたまらない。


「弁当モードって?」

「焼きそばパンモードから切り替えてあるんだよ。胃の右下は卵焼き。左下は唐揚げ。右上はその他もろもろで、左上はおにぎり」


彼は自分の胃の辺りを指差しながらそう言う。


「勝手にメニュー決めないで!」


でも『卵焼き』と言われたとき、ドキッとした。
それは入っているだろ?と言われているような気がしたし、本当に入っている。