助けてくれたのに怒ることもできず、盛大な溜息をつく。
私があまりにも慌てふためくからか、「つぐってウブなんだな」とケラケラ笑われてしまった。
結局、授業の始まりのチャイムが鳴る頃、やっと音楽室にたどり着き、朝陽はすぐに去っていった。
『ありがとう』という隙もなかった。
それから、朝陽が私のところに来るたびに、クラスメイトの注目を一身に浴びた。
でも彼はそんなことまったく気にならない様子で、かいがいしく私の世話を焼く。
ホームルームが終わった後も、彼はすぐに再びやってきた。
「つぐ、帰るぞ」
「うん」
これじゃあまるで彼氏みたいと戸惑いつつ、荷物を持ってもらえるのはありがたい。
それに、誰かと会話を交わすことがこんなに楽しいことだと、久しぶりに思い出していた。