――キャィィン。
すると大きな犬にそぐわない甲高い鳴き声と共に、一旦は後ずさりしたものの、私にぶつかられたのが余程気に食わなかったのか、さっきよりずっと低いうなり声をあげ始める。
走って逃げれば間に合う?
今しかチャンスはない。
私は意を決して走りはじめた。だけど……。
真っ黒な塊りがすごい勢いで私に飛びかかってきて、太ももに歯を立てた。
「イヤ……。助けて!」
左足に走る激痛で顔がゆがむ。
痛む足を必死に振り、犬を追い払おうとしてもうまくいかない。
そのとき……。
「このヤロウ!」
階段を駆け上がってきた男の子が、落ちていた棒を拾ったかと思うと、容赦なくその犬めがけて振り下ろした。
そして、目を三角に釣り上げたその男の子は、何度も何度も棒を振り下ろす。