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「つぐ」
音楽の前の休み時間になると、宣言通り朝陽が顔を出した。
「朝陽先輩だ……」
あちこちで女子が声を上げ、彼に注目している。
どうやら朝陽は有名人らしい。
まぁ、あんなことでもなければ私には縁のないような整った容姿をしているから、皆が憧れているのもうなずける。
「ホントに、来たの?」
「お前、俺が嘘つくと思ったのか?」
彼はクスッと笑うと、机の上に置いてあった私の教科書と筆箱を持った。
「そういう訳じゃ、ないけど……」
チクチク突き刺してくるクラスメイトの視線を感じながら、朝陽と一緒に教室を出た。
松葉づえをつきながら、片手に荷物を持つのはなかなか難しい。
誰も手伝ってはくれないだろうから、本当に助かる。
音楽室は特別棟の最上階にある。
休み時間は十分しかないのに遠すぎる。