――ガウウゥ。

するとそのとき、低いうなり声のような音が耳に届いてハッとした。
なに?


――ウゥゥゥ。

するとさっきよりさらに低いうなり声。

怖くなってゆっくり立ち上がると、背後でなにかが動いた。
音を立てないようにそっと振り向くと、首輪をした真っ黒の大きな犬が、目をつり上げて私をにらんでいた。

どうしてこんなところに?

その犬が体を少し後掲姿勢になり、私に飛びつく準備を始めたことがわかると、恐怖で体が動かなくなってしまった。


逃げなくちゃ……。
そう思えば思うほど、足が動かない。


――ウゥー、ガウゥッ!


「キャ!」


条件反射で飛びついてきた犬に背中を向けると、丁度肘が当たったらしく犬はひるんだ。