「つぐみ、トイレ?」
「ううん。お母さん、私帰らなくちゃ」
あの手紙は私の部屋の机の引き出しの中にある。
「待ちなさい。もうすぐ先生がいらっしゃるわ。診察を受けたら退院できるかもしれないからね」
小さな子に言い聞かせるように母はそう言った。
冷静になった私が再びベッドに戻ると、母は「ふー」と安堵の顔。
早紀もあの時、そんな顔をしたような気もする。
あぁっ、信じたくない。
早紀にもう会えないなんて、どうしても。
窓から見える空は、昨日の雨なんて嘘だったかのように晴れ渡っていた。
太陽の光がキラキラと空気の中にある水の粒を光らせている。
「虹……」
ふとあの封筒に描かれていた虹を思い出した。
その瞬間、左のこめかみがズキンと痛んだ。