やっぱり、こんなときでも仕事が大切なんだ……。


「食欲ない?」


母は手を付けていない食事を見て、心配げな顔をする。


「うん。ごめん」


もう少し時間がほしい。


「そうよね」


母はそれでも精一杯口角をあげ、トレイを返しにいく。


早紀はあのとき、どうして微笑んだのだろう。
すごい勢いであの駅のホームの出来事が頭の中でフラッシュバックする。

電車が近づいてくると、ほんのり水分を含んだ風がいつものように私の髪を揺らした。
最近腰まである長い髪を少し切った早紀にも同じように。

そして、ライトが近づいてきたとき、早紀の姿が視界から消えた。
ほんの少し微笑んだような早紀が。


「早紀……」


手紙を読まなくちゃ。
慌ててベッドを出ようとすると、母が戻ってきて駆け寄る。