「朝陽」

「遅かったな、つぐ」

「ごめん。今日は、お客さんが来てるの」


先輩はまだ廊下にいる。
逃げないで、入ってきて。

私が心の中で念じていると、「裕一か」と朝陽の方から言い出すから驚いた。

すると裕一先輩は病室の中に入ってきて、いきなり土下座をする。


「朝陽、すまなかった。謝って済むなんて思ってない。でも……謝らせてくれ」


あの日、ふたりが屋上でどんな状況だったのか、なにを話していたのかを詳しくは知らない。
それでも朝陽が鬼の形相で怒りをあらわにしていたのは事実。

おそらく、裕一先輩は朝陽を突き落そうと画策していたに違いない。
そして、それに気づかぬフリをしていた朝陽が、突然反撃をしたのだろう。


私は一歩下がって、朝陽の顔を見つめていた。