――プー。
トンネルの向こうから、電車の警笛が聞こえてきた。
湿度が高いせいかいつもよりこもって聞こえたその音と共に、ブワッと風が吹いてきて、やっと肩につくほどの私の髪を揺らした。
いつもの光景。
これからその電車に乗って、家に帰るはずだった。
「自動扉、間に合わなかったみたい」
「えっ?」
早紀は一瞬私を見つめ、口角をあげてみせる。
なに? 間に合わなかったって?
その時の、見たことがないような彼女の表情は、なんと説明したらいいのかわからない。
微笑んでいるように見えたのに、なにかを諦めたかのような憂いを感じる。
それだけではない。
少しだけ潤んでいるように見えたその瞳の奥には、メラメラと燃えるような憤りが見えた。
喜怒哀楽、をすべて含んだような彼女の複雑な表情にあっけに取られ、「早紀」と声をかけようとした瞬間……。