ドクターも私を彼の顔の近くに行かせてくれた。


「朝陽、私だよ。つぐみ。ありがとう。約束守ってくれて、ありがとう……」


そう呼びかけながら彼の手を握ると、彼は軽く握り返してくれた。
もうそれだけで胸がいっぱいになった私は、涙を隠せない。


「つ……ぐ」


酸素マスクの下の彼の口が、たしかに私の名前を呼んでいる。


「うん、ここ」

「つ、ぐ……」


彼の目は開くことがないけれど、目尻から涙がツーッと伝って下りていくのを見逃さなかった。

生きている。
彼は生きている。


「早く、元気になって」


朝陽は疲れたのか、それからしゃべらなくなってしまった。
だけど、握った手は熱く、たしかに力を感じる。

それからすぐに、看護師に頼んで呼びにいってもらっていた両親も駆け付け、私と同じように彼の名前を呼ぶと、彼は渾身の力を振り絞るように「ありが……」と口にした。