救急隊員はなにひとつ無駄な動作をすることなく、朝陽を救急車へと運ぶ。
「朝陽を助けてください。お願いします」
私が懇願すると、隊員は「全力を尽くすから」と私も乗せた。
車内では、彼の言う通りずっと手を握っていた。
心なしか冷たくなっていく彼の手は、もう力なく、私の手を握り返してくることもない。
それでも、諦められない。
だって、朝陽が諦めていないんだから。
「心拍は弱いけど、呼吸はある。呼びかけてあげて」
あっという間にモニターをつけ終わった隊員が、彼の状態を確認しながら、病院とコンタクトを取っている。
「朝陽。私はここにいるよ。安心して。ずっとそばにいるからね」
溢れ出す涙をぬぐうことも忘れ、何度も何度も「朝陽」と呼びかける。