だけど彼女は、私にだけは笑いかけてくれていたから、味方になれているのだと勘違いしていたのかもしれない。
そんなの、勝手な思い込みだったのに--。
駅についても雨はやまない。
傘を閉じてクルクルと丸めると、手がビショビショになって顔をしかめた。
「あー、冷たい」
私が雨に文句を言うと、早紀はスクッと笑って、「しょうがないよ。生きてるから冷たいんだもん」と妙なことを口走る。
「生きてるって、早紀は大げさだよ」
「そうかなぁ」
最近には珍しく、早紀は終始笑顔だった。
地下鉄に乗るために長い階段を下りると、傘から滴る水滴がホームのタイルを濡らしていく。
「こんなに楽になれるなら、さっさと決めればよかった」
「なに?」
早紀がつぶやいた言葉の意味を理解できなくて聞き返すと、「なんでもないよ」と彼女は微笑んだ。