私にとっては“そんなこと”だった。
でも早紀にとってはそうじゃなかったことを、そのときは知らなかった。
「私、すごくうれしかったんだ」
「早紀……」
私の顔を見ることなくつぶやいた早紀の横顔が、悲しげに変化した。
でもそれも一瞬のこと。
再び彼女は笑顔を作ると、「つぐみ、ありがとね」と改めてお礼を言うから、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「いいよ。今度は卵焼きあげる」
「ホント?」
早紀がこうして微笑んだところを、教室では長く見ていない。
私とふたりだけの秘密。
--彼女は五月のゴールデンウィークが明けた頃、突然クラスメイトから無視されるようになった。
そんなことを知らない私が今までのように話しかけていると、【つぐみも裏切られるから気をつけな】という手紙が回ってきた。