「つぐ、お土産」
彼はしばらくして戻ってくると、私に小さな貝殻を握らせた。
それは桜色をした貝殻で、春を感じる。
これからますます厳しい寒さがやって来るけど……その後には春が待っている。
朝陽にも、春が来るんだよ。
暖かな春が。
「ありがと」
貝殻をポケットにしまって、ふたりで歩き始めた。
「冷たかったでしょ?」
「そんなことない。ほら、これくらい」
「冷たい!」
彼が海水に触れていた手で私の手を握るから、手を引っ込めようとした。
でもそれができなかったのは、思いがけず強い力で握られてしまったから。
「また、来たいな」
太陽の光が海面にキラキラと反射してダイヤモンドの絨毯のよう。
その先の水平線をじっと見つめる朝陽がそう言うから、思わずその手を握り返した。