かろうじて返事はできているものの、彼の息づかいが耳元で聞こえるから、緊張で体がこわばる。
「で。前に押し出すんだけど、ほらここ。この辺で手を離す」
「わかっ、た」
本当はちっともわかっていない。
今まで彼に何度も抱きしめられてきたのに、なぜだか今日は恥ずかしくてたまらなくて、彼の言っていることが頭に入ってこない。
それでも次の投球は、なんとか前に球が飛んだ。
残念なことに、ガーターに吸い込まれてはいったけど、前に飛んだのがうれしくて小さいガッツポーズをしてしまった。
「ひとつも倒れてないぞ」
「いいの。気にしない」
私がそう言うと、朝陽はまたおかしそうにケラケラ笑った。
私とは対照的に、彼はすごくうまかった。
”そこそこ”のレベルが違い、何度もストライクを出すし、スペアも取った。