「でも、どうやら帰らないといけないみたいだ」
「あっ……」
空を見上げると、ポツリと頬に冷たいものを感じる。
「これは降るな。急ぐぞ」
朝陽は私の手首をつかんだまま、階段を下りはじめた。
さっき会えたばかりなのに。
今日はもっと一緒にいたかったのに……。
私が落胆していると、彼は「まだ時間あるんだろ?」と激しくなる呼吸の合間にそう絞り出した。
「うん」
「それじゃ、行くぞ」
「ちょっ、どこ行くの?」
「俺ん家。今誰もいないから」
それじゃあ、まだ一緒にいられるの?
私の家とは反対方向に走っていく彼は、長い足を前に進めながらも、私のスピードに合わせてくれる。
すると、遠くで季節外れの雷の音までし始めた。