たしかあのとき――三年の先輩に絡まれて、生徒指導室に行ったとき――彼は推薦リストに載っていると言われていた。
それじゃあこの話は、現実なの?
でも……。
「そんなことで?」
この話が現実だとしても、そんなことを命と天秤に掛けたの?
「アイツが親の期待が大きすぎて、押しつぶされそうになっていたのは知ってた。でも、俺だって必死に勉強してつかんだチャンスだったから、簡単に譲る訳にもいかなくて」
朝陽はそのときのことを思い出したのか、険しい顔をしてうつむいてしまった。
「俺は自分が死んだあと、自殺として処理されたことを知ってしまった。そして、その推薦の権利がアイツに渡ったことも」
もうなにも言えなかった。
そんなにひどい話、聞いたことがない。
次から次へとあふれてくる涙が、止まらなくなった。