「そ、相馬っ。お前なんで、こんな─── 」


「……足りない、」


「な、なんだ?」


「全然……足りない……っ」


「っ、」



拳が切れて、そこから赤が滲んで追いかけるように痛みが拡がっても。


俺にどんなに痛みが増えても、まだまだ何もかもが足りない気がした。



─── 栞が今日まで痛めてきた心の傷に比べたら。



こんな痛みじゃ到底足りない気がして、それを思えば悔しくて悲しくて……やりきれない気持ちだけが拡がって。


その全てに蓋をするように一度だけ瞬きをすれば、冷たくなった頬に涙の雫が一滴、静かに伝って零れ落ちた。



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 『Sweet Alyssum(アリッサム)』

 美しさを超えた価値