だって、タイショーはちょっと意地悪だ。教師なら心優しくなくちゃいけない。
タイショーは髪が茶色い。教師なら黒髪じゃなきゃ。
タイショーは原付を改造してる。教師があんなの乗るわけない。
そして、タイショーはお姉ちゃんを愛してる。
教師なんかになったら、女子に囲まれてお姉ちゃんが心配するじゃんか。
「あら、いらっしゃい」
玄関先からお母さんがタイショーに声をかけた。
「ミホなら部屋にいるから、上がってちょうだいね」
「あ、はーい。おじゃまします」
問題集をわたしに返すと、タイショーは窓から離れて玄関の方へ歩いていく。
と、ふいに立ち止まり、ポケットから何かを取り出した。
「ハヅキング。あげる」
「え?」
タイショーの放り投げたものが放物線を描いて、すとん、とわたしの手のひらに落ちた。