―――抱きかかえられている。ということは、目を閉じていてもハッキリわかった。
力強い腕。
服ごしの体温。
かすかに鼻孔をくすぐる、石けんの匂い。
あ‥‥‥タイショー、昔と同じ石けんだ。
ぼんやりした頭で、そんなことを思った。
保健室には、人の気配がなかった。
タイショーは手際よくベッドにわたしを寝かせると、横の丸イスに座った。
「大丈夫か?」
緊迫した声。
わたしはうっすらと目を開けて、横目で彼を見た。
今のわたしの顔も青いだろうけど、彼の方もわたしに負けないくらい顔面蒼白だ。
「うん、大丈夫‥‥‥ありがとう」
「よかった」
タイショーが長く息を吐く。
「心配しすぎだよ、タイショー」
わたしは小さく笑った。
「実は、昨日から食べてなくてさ。お腹空きすぎて気持ち悪くなっちゃっただけ」
「なんだ、そうだったのかよ」
タイショーの表情がやっと、やわらいだ。
そんな彼を見て、わたしの気分の悪さもマシになる。