ぐるぐる、ぐるぐる‥‥‥。
行き場のない思考が、頭をめぐる。目の前で授業をするタイショーの声も、耳に入ってこない。
朝の一件からわたしは、暗い迷路に放りこまれた気分になっていた。
タイショーとまともに顔を合わせる勇気すら出なくて、コートとスマホを、職員室の彼の机に置いてきたほどだ。
そして今も、教壇に立つ彼を直視できない。
【宮原葉月って、例の子だよね?】
平井先生は、何を知っているんだろう。
【これ以上、親しくしない方がいいと思うの】
何を、どこまで、知っているんだろう。
机に突っ伏した状態で、悶々と考えていると、チャイムが鳴った。
タイショーの授業が終わり、クラスメイトたちが席を立つ音が聞こえる。
「葉月ー。次、音楽室だから行こ」
友達に声をかけられ、わたしは顔を上げようとした。
が、できなかった。頭部がやけに重く感じて、持ち上げることができない。
「葉月?」
イスに座っているのに、船で揺られているように感じる。
目を閉じて暗いはずの視界が、チカチカと瞬きだす。
「どうしたの、葉月?」
「気持ち、わるい‥‥‥」
「先生、葉月が!」
友達が叫んだのと、わたしの体が浮いたのは、ほぼ同時だった。