タイショーがわたしの少し前を歩きだした。
わたしもほかの生徒の目を気にして、彼から数メートル離れるようにして歩いた。
行き交う人々や自転車の中で、彼の後ろ姿だけが、くっきりと浮かび上がって見える。
「瀬戸くん」
学校まであと100メートルくらい、という時。
コートを返そうと思った矢先に、横からタイショーを呼ぶ声が聞こえた。
先生、ではなく、瀬戸くん、と。
「おはよ」
「平井。おはよう」
道路に一時停車した車を見て、タイショーが言った。
窓から顔をのぞかせるその女性は、タイショーと同じ教育実習生の、平井先生だ。
「瀬戸くん、一限目までに仕上げる報告書なかった?」
「あ、そうだ。忘れてた」
やべぇ、と焦るタイショーに、平井先生はクスクス笑う。
「乗ってく?」
「いや、いい。すぐそこだし」
そう言って校門の方へ駆け出したタイショーは、一瞬だけ足を止めてふり向くと
「コート、放課後でいいから!」
とわたしに告げ、走っていった。
突然のことにポカーンとしながらも、“放課後”という言葉をわたしの頭がリピートする。
つまり、今日の放課後にもまたタイショーと話す機会があるってことで。