ど‥‥‥どうしよう。気まずい場面を見てしまった。
いや、どうしようも何も、わたしには無関係なのだけど。

でも、このままタイショーをほっておいてもいいの?

ううん、よくない。だって、原付のキーを捨てられたんだよ? 困ってる人に声をかけるのは当然じゃない?

‥‥‥うん、当然だ。
別に、深い意味なんてない。


頭の中でぐるぐる考えた末に、やっとわたしは声を出した。


「タイショー」

「え? あぁ、ハヅキング」


ふり返った彼は、窓から顔を出すわたしを見て、即座に笑みをまとった。


「ガキに修羅場を見られたか」

「誰がガキよ」

「ははっ」


いつもと変わらない笑顔に、わたしは胸が苦しくなった。


「てか原付のキー、捨てられちゃったけど大丈夫?」

「大丈夫じゃねーよ」

「だよね」


川の流れはけっこう速いし、深さもある。
肌寒い10月の、しかも曇りの日に、川に入って見つけだすのは至難の業だ。