「落ち着けよ、ミホ。こんなのただのゲーセンの景品だし、いらないって言うから俺がもらっただけなんだから」
徐々にタイショーの口調もげんなりしてきた。
彼の右手には、問題のキーホルダーらしきものを付けた、原付のキー。
「だからって、なんでタイショーがもらうわけ? しかも普通、使う?」
「別に深い意味はねーよ」
「タイショーはわかってない! 女友達も多くて、わたしが不安になること全然考えてくれないじゃん!」
「そんなことねーし! 好きなのはミホだって言ってんだろ」
「言葉だけじゃもう不安が消えないの!」
姉がタイショーの手からキーを奪った。
次の瞬間、それは大きく宙を飛び、道路わきの川にボチャンと落ちた。
「‥‥っ、何すんだよ!」
「ちょっとは冷たい川で頭冷やせば!? じゃあね!」
姉は捨て台詞を吐くと、自転車に乗ってどこかに行ってしまった。
その場に残されたのは、途方にくれたタイショーの後ろ姿。