「その人たちのこと、本気で好きだった?」
「もちろん」
「でも、お父さんと結婚したんだ」
「昔の人たちとは、いろんな形で終わったからね。その末にお父さんと出逢って、大恋愛で結ばれたのよ。当時はお父さんもイケメンで‥‥‥
あっ! ユヅくんの新しいCM!」
テレビコマーシャルにお母さんが釘付けになったので、会話はそこで中断した。
わたしはそんなお母さんに思わず苦笑してしまった。
大恋愛でお父さんと結ばれたというお母さんだけど、今ではフィギュアスケートの羽生くんに恋してる。
ちなみに、ちょっと前までは体操の内村くんに恋していた。
もうすぐ50歳を迎えるお母さんの恋は、軽やかで、楽しげだ。
「―――あ、雨」
かすかな音に気づいて、わたしは窓の外を見やった。
薄暗い夕闇の空から、白い糸のような雨が落ちていた。
‥‥‥そういえば、あの前日も雨だったな。
断続的な雨音が、とつぜん、記憶の扉をたたいてくる。
よみがえったのは、わたしが2回目に見たタイショーのキス。
もっとも、あれをキスと呼ぶのかは疑問だし、
“見た”というのも少し違うかもしれないけれど―――‥‥