「てか、お姉ちゃんはあの人と仲良くやってるの?」
「え? あぁ、吉川さんと? そりゃあ仲良くしてるんじゃない」
吉川さん、というのは姉の夫のことだ。
正確には、姉ももう吉川さんなのだけど。
「まじめで素朴な人だからね。ああいう人は結婚生活に向いてるのよ」
お母さんが姉の夫についてそう語るとき、無意識に真逆のタイプだったタイショーと照らし合わせているように、わたしには見えてしまう。
タイショーを好きだった姉は、もう存在しない。
代わりに、吉川さんという別の人を愛する姉がいる。
そのことが時々、とてつもなく不思議なことのように感じる。
「‥‥‥ねぇ。お母さんはさ。お父さんの前に、好きだった人、いる?」
「はぁ!? どうしたの、いきなり」
お母さんが吹き出した。
「なんとなく気になって‥‥‥」
「まぁ、そりゃあね。何人かはいたけど」
座椅子でうたた寝しているお父さんを横目で見ながら、お母さんが声をひそめて言った。