「あ…」

「今すぐ運んでやるからな、何があったんだ?」

「わ、わか、わかんない」



私は、安心したのか、この傷が人の手当てでどうにかなるものなのかわからない不安からか、気がつくと泣きじゃくっていた。

大丈夫ですから、と救急隊員が言ってくれるのにも、なんの反応もできず、立ちすくむ。

担架に乗せられながら、林太郎のシャツが手早く切られた。

傷も見えないくらい溢れる血に、ひっと喉が鳴った。


その時、だらんと投げ出されていた林太郎の手が、かすかに動いた。



「林太郎!」



駆け寄ると、応じるように林太郎が、目を開ける。



「あっちゃん…」

「林太郎、ごめん、ごめんね」

「…何がやの…?」



動きますよ、と隊員さんが担架を持ち上げた。

いつの間にか控えていたストレッチャーに乗せられる間にも、血がシートからこぼれて、地面に赤い染みをつくる。

氏名は、年齢は、住所は。

訊かれるままに答えながら、いいから早くして、と祈った。



「血液型は」

「Aで」



Oや、と林太郎の消え入りそうな声が遮った。



「何言ってんの、あんた、A型じゃん」



横を走りながらのぞきこむ私を、ぼんやりと見つめ返して、それすら耐えがたそうに、ゆっくりと目を閉じる。



「僕は、O型や」

「林太郎」

「大丈夫ですよ、調べますから」



隊員さんは、私も車に乗るかと勧めてくれた。

首を振った。

私がそばにいたら、また林太郎に何か、降りかかる気がしたからだ。


日常を壊すものだと思っていたサイレンが、初めて頼もしい味方に思えた。

涙を腕で拭いたら、乾きかけていた血がぬるりと滑った。

その血すら、抱きしめたかった。


林太郎、助かって。

助かって。