「本気?」
「んー、苦手やけど」
「林太郎がそこまでしなくたって」
「僕で埋まる穴なら、埋めたいんや」
なんでもないことみたいに言って、林太郎は軽トラックから荷降ろしをしているおじさんを見つけると、走り寄る。
「おっちゃん、手伝うで、ちょっとちょうだい」
「おっ林ちゃんか、いいよ、持ってきな」
荷台いっぱいの段ボール箱を降ろすと、中に入っていたほんのり青いバナナ2本を戦果に、林太郎が戻ってきた。
はいとひとつを私に渡して、にこっとする。
出店の準備が始まるこの日はこんなふうに、子供たちがちょろちょろしてはお駄賃やごちそうにありつくものなのだ。
「小さい子、減ったね」
「このへん、どこもほうや、みんな出てってもて、戻ってこん」
夕暮れの湖が、林太郎の横顔を照らす。
鉄パイプや材木のぶつかりあう、活気溢れる音と対照的に、村の未来を憂えるようなその表情は。
制服の白いシャツと相まって、林太郎を急に大人びた、少し遠い存在のように見せた。
「林…」
「あれ、遠藤けの」
「え?」
林太郎が指差した先には、智弥子と遠藤くんが、仲よさそうに歩いていた。
高校に上がると同時に引っ越してしまった智弥子は、懐かしそうに村の人たちと話している。
「冷やかされてんやろね、真っ赤や」
「いいねえ」
何の気なしに言うと、え、と林太郎が声をあげた。
「あっちゃんも、ああいうん、うらやましんか」
「え? いや、そういう意味じゃなくて、単に微笑ましいなあと」
なんや、と気の抜けたようになる。
「びっくりさせんといて」
「びっくりしたのはこっちだよ」
「だって、あせるが、あっちゃんはほんなん興味ないと思ってたで、僕、少し安心してたんやもん」
何それ、と驚くと、私の機嫌を損ねたと思ったのか、林太郎が慌てた。