「つまり、ここをまっすぐ行くと、大鳥居だな?」
「めちゃくちゃ詳しいじゃないですか」
そんなローカルなランドマークで通じるなら、早く言ってよ。
憤慨する私をよそに、おかしいなあと死神が首をひねる。
「合ってる」
「待ち合わせですか」
「どっちかっていうと、待ち伏せかな」
「それは、あれですか、いわゆる、死神のお仕事の」
「そのまさかです」
「言ってません」
どうも翻訳に変なクセがあるみたいだ、と死神はまた首をひねった。
さっきから翻訳翻訳と言うけれど、何か機械を使っている様子もない。
自分の能力のひとつにしては発言が他人事だし、いったいどんな仕組みなんだろうと訊いてみた。
「業務用のアプリケーションみたいなものかな」
「自分にインストールでもするわけですか」
茶化すつもりで言ったのに、少し違う、と彼は真面目な顔で首を振る。
「こっちの概念で言うなら、ネットワーク上にあるシステムに、自分がアクセスするんだ。クラウドコンピューティング的な感覚だ」
…さようですか、と言うのがやっとだった。
やっぱり、からかわれているんだろうか。
そんな疑いが生じた時、きょろきょろと周囲を見回していた彼が、仕方なさそうに言った。
「少しうろついて、探してくる」
「名前があれば、聞かせてもらえませんか」
せっかくの珍しい体験だし、記念にと思い申し出てみた。
立ち去りかけていた彼が振り向き、思ったよりあっさり教えてくれる。
「人見伸二(ひとみしんじ)」
「私、江竜新(えりゅうあらた)といいます」