「おじさんの容態は」
「小康状態やって、でもいつまた危なくなるか、わからんよって言われたわ」
なるほど、“時”が行った、てのは、こういうことか。
人には、何度かの“時”があって、それに合わせて死神が刈るんだろう。
刈りそびれると、お互い待ち時間。
その期間はたぶん、死に損なうとか、持ち直すとか、そういう言葉で私たちが表現するものだ。
お父さんがいなくなったら、林太郎はどうするんだろう。
あの大きな家に、ひとりきりで住むんだろうか。
それとも、お母さんのいる地方に移って、同じ言葉を喋る人たちに囲まれて暮らすんだろうか。
「林太郎…」
「ん?」
私の頭に手を置いて、ぼけっと本棚を見ていた林太郎が、振り返った。
「…なんでもない」
どうしたんよ、と穏やかに問い返されて、泣きたくなる。
林太郎は笑うと、お母さんみたいに、ぽんぽんと布団を叩いた。
「身体悪いんで、心細くなってるんやね」
「何がそんな嬉しいの」
「だって可愛いが」
バカにしてんの、と憎まれ口を叩く私の頭を、可愛い可愛いとなでながら、安心させるように手を握ってくれる。
そういえば小さい頃、しょっちゅうこんなふうに寝込んだ林太郎を、可愛い可愛いと構いたがったのは、私のほうだ。
そう思い出したのは、夢の中だった。
気配に目が覚めた。
暗い室内に佇む人影に、はっと緊張してから、それが伸二さんだと気づく。
「何、してるんですか」
「え」
彼はきょろきょろして、あ、と言った。
「見えていたか」
「ぼんやりしすぎでしょう」
「すまない」
素直に肩を落とす様子に、気の毒さが募る。
私は枕元の明かりをつけ、布団を出てベッドに座った。