林太郎は、床に腰を下ろし、心配そうにのぞきこんできた。

そうされると、顔がやけに近くに来て、不覚にもそわそわしてしまう。



「どこでほんな怪我したんよ」



そうか、と思い出した。

林太郎はまだ、おじさんがどうなったのか、知らないんだ。


知らないままのほうがいいのかもしれない。

少しだけ迷って、でも結局、話すことにした。

林太郎には知る権利があると思ったし、何より、自分の胸に留めておくのがつらかったからだ。


私が目撃した一部始終を、林太郎は黙って聞いていた。

話し終えたあとも、難しい顔で考え込んで、やがて、ほやったんか、とつぶやいた。



「ほんなことが、あったんやね」

「おじさん、これからどうなるんだろ」



わからん、と首を振る。



「でも、嬉しかったと思うで、最後にあっちゃんに会えて」

「え?」

「もしかしたら、ほれ言いたくて逃げてたんかもしれんよ」



枕の上から見上げる林太郎は、妙に大人っぽく感じる。

私の知らないことも知ってそうな。

悪いことをしたら、優しく叱ってくれそうな。



「あっちゃんに、ありがとなって」



涙がにじんできた。

林太郎が、頭をなでてくれる。

私が考えていたのは、サンクスノベルズのことだった。


村長の書いた、サンクスノベルズ。


今になって、最近の自分が、あのエピソードたちに、どれだけ支えられていたか気づく。

特に伸二さんと出会ってから、私にとってあのノベルは、ただの暇つぶしとか娯楽とか、そんなものを越えていた。


ささやかで、綺麗で、時々切なくて。

どうにもならないことや理不尽なことで世の中埋まってるけど、感謝の気持ちがある限り、そう悪くもないって。

ありがとうって言えたら、人は大丈夫なんだって、そう思わせてくれる。


私が消えた後も、トワはその言葉を探し続けて、いろんな感情に出会って、成長してくんだろうなとか。

たぶん智弥子はずっとノベルを追いかけて、最終回が来たら、私のことを思い出すだろうなとか。

何年先かわからないけど、そんな時が来たら、私の代わりに、作者に感謝のカキコをしてって、それだけは言い残しておこうとか考えてた。