死神は嘘をつかない。
でも真実をすべて語っているとも限らない。
「あなたがいるからじゃない?」
にやにやと楽しげなテンを置いて病室に入ると、中の空気は一変していた。
ベッドの上半分を起こし、なかば座るような状態で、林太郎の手から水を飲んでいた人物が、私に気づく。
さっきまでが嘘のような、強い視線だった。
「勝手にすみません、あの…ご無沙汰してます」
村長は私を凝視したまま口をゆすぎ、林太郎が差し出した受け皿に、ぺっと吐き出す。
ひとつひとつの所作が、実に億劫そうで、残り少ない何かを振り絞っていることが見てとれるのに。
それでもなお、溢れる威厳。
そうだ、この人が、私たちの長。
そう思い出させるのに充分だった。
「お袋さんは生きてるか」
その一言で、この人は全部承知しているのだと、わかった。
私が誰であるかも、母が不安定なことも。
やり場のない怒りが湧いてくる。
知っていてこの男は、あんなになったお母さんを、放置していたのだ。
もしかしたら、金銭的な援助はしていたのかもしれない。
私の知らないところで、他の助けもあったのかもしれない。
だけど許せない。
だけど私の父親。
「かろうじて」
「会いたいな」
ふっと笑うと、目尻にくしゃりとしわが寄る。
私は、年をとって少し肥えてからの彼しか知らないけれど、元は堂々たる体躯で、歩けば誰もが振り返る美丈夫だったと聞く。
恐怖政治が流させた噂かと話半分に聞いていたそれが、初めて本当だったのかもしれないと思った。
「つれてきましょうか」
「いいよ、見せられる姿じゃねえだろ、も少しマシな姿で、記憶に残りてえよ」
「女々しいこと言いますね」
「死に際に嫌なこと言うない、林、煙草」
でも真実をすべて語っているとも限らない。
「あなたがいるからじゃない?」
にやにやと楽しげなテンを置いて病室に入ると、中の空気は一変していた。
ベッドの上半分を起こし、なかば座るような状態で、林太郎の手から水を飲んでいた人物が、私に気づく。
さっきまでが嘘のような、強い視線だった。
「勝手にすみません、あの…ご無沙汰してます」
村長は私を凝視したまま口をゆすぎ、林太郎が差し出した受け皿に、ぺっと吐き出す。
ひとつひとつの所作が、実に億劫そうで、残り少ない何かを振り絞っていることが見てとれるのに。
それでもなお、溢れる威厳。
そうだ、この人が、私たちの長。
そう思い出させるのに充分だった。
「お袋さんは生きてるか」
その一言で、この人は全部承知しているのだと、わかった。
私が誰であるかも、母が不安定なことも。
やり場のない怒りが湧いてくる。
知っていてこの男は、あんなになったお母さんを、放置していたのだ。
もしかしたら、金銭的な援助はしていたのかもしれない。
私の知らないところで、他の助けもあったのかもしれない。
だけど許せない。
だけど私の父親。
「かろうじて」
「会いたいな」
ふっと笑うと、目尻にくしゃりとしわが寄る。
私は、年をとって少し肥えてからの彼しか知らないけれど、元は堂々たる体躯で、歩けば誰もが振り返る美丈夫だったと聞く。
恐怖政治が流させた噂かと話半分に聞いていたそれが、初めて本当だったのかもしれないと思った。
「つれてきましょうか」
「いいよ、見せられる姿じゃねえだろ、も少しマシな姿で、記憶に残りてえよ」
「女々しいこと言いますね」
「死に際に嫌なこと言うない、林、煙草」