母の頭がまともなうちに、できたら訊きたかった。
なんで産んだの?
なんで誰かと結婚しなかったの?
村長をどう思ってるの?
父親が誰だか教えてくれなかったのは、口止めされてるから?
おかゆは懐かしい味がした。
私の料理は、母のごはんがベースになっているので、基本的には同じ味だと思っていたんだけど。
やっぱり母の味は、母の味だ。
どうして、よりによってこのタイミングで、しゃっきりしてしまったんだろう。
母が前後不覚に陥っている間に消えるのなら、ありかと思っていたのに。
あれじゃ真正面から、娘を失う痛みに向き合うことになる。
あの母に、そんなの耐えられるだろうか。
『新いないとつまんないよー、具合どう?』
「元気、単に傷が化膿して熱出ただけだから」
『傷って何よ』
擦りむいたの、と嘘ではない報告をすると、智弥子が怪訝そうな相槌を打つ。
そういえばさ、と言うそばで、スナック菓子らしい軽い音がした。
『林太郎も今日、休んでるらしいよ』
「さりげなくノロケるのやめてくださいよ」
『うるさいな、たまたまメールしてたの』
あっそう、と遠藤くんとの仲のよさを冷やかしながら、林太郎のことを思った。
林太郎は、テンに会ったことを忘れている。
──あんた、誰や。
誰何した林太郎に、テンはにやにやしながら、おっと、と手を伸ばした。
『まだお前に見られる予定じゃ、なかったんだ』
『何言っ──』
長い爪と林太郎の額の間で、パチ、とかすかな音がした。
たったそれだけで、林太郎は数分間の記憶をなくし、テンのことも見えなくなっていた。
巻き戻しがかかったみたいに、話すって誰とや、と林太郎が言った時。
私は今更ながら、死神というものが、人知を越えた、得体の知れない生き物であることを実感した。
なんで産んだの?
なんで誰かと結婚しなかったの?
村長をどう思ってるの?
父親が誰だか教えてくれなかったのは、口止めされてるから?
おかゆは懐かしい味がした。
私の料理は、母のごはんがベースになっているので、基本的には同じ味だと思っていたんだけど。
やっぱり母の味は、母の味だ。
どうして、よりによってこのタイミングで、しゃっきりしてしまったんだろう。
母が前後不覚に陥っている間に消えるのなら、ありかと思っていたのに。
あれじゃ真正面から、娘を失う痛みに向き合うことになる。
あの母に、そんなの耐えられるだろうか。
『新いないとつまんないよー、具合どう?』
「元気、単に傷が化膿して熱出ただけだから」
『傷って何よ』
擦りむいたの、と嘘ではない報告をすると、智弥子が怪訝そうな相槌を打つ。
そういえばさ、と言うそばで、スナック菓子らしい軽い音がした。
『林太郎も今日、休んでるらしいよ』
「さりげなくノロケるのやめてくださいよ」
『うるさいな、たまたまメールしてたの』
あっそう、と遠藤くんとの仲のよさを冷やかしながら、林太郎のことを思った。
林太郎は、テンに会ったことを忘れている。
──あんた、誰や。
誰何した林太郎に、テンはにやにやしながら、おっと、と手を伸ばした。
『まだお前に見られる予定じゃ、なかったんだ』
『何言っ──』
長い爪と林太郎の額の間で、パチ、とかすかな音がした。
たったそれだけで、林太郎は数分間の記憶をなくし、テンのことも見えなくなっていた。
巻き戻しがかかったみたいに、話すって誰とや、と林太郎が言った時。
私は今更ながら、死神というものが、人知を越えた、得体の知れない生き物であることを実感した。