真顔で即答されて、この人ちょっとずれてんな、ととりあえず感じた。

炎天下でいきなりぶっ倒れといて、大丈夫って。

でもまあ、その論理で行けば、訊いた私も私だ。



「どうしたんですか」

「それを今、考えてる」



大学生くらいに見える。

もう少し上でもあり得るかもしれないけど、恰好がラフなせいもあって、よくわからない。


言葉のとおり、その人は地べたに座りこんだまま、じっと何か考えている。

お尻、熱くないのかなと心配になる頃、ふと気がついたようにまた私を見た。



「俺が見えてるね」



わあ、真性のやばい人だ。

むしろかわいそうな人かも、と思いながらも、見た目があまりに普通なので、不思議と警戒心は作動しなかった。

案外いい男かも? とさっきとまた違う印象に戻る。



「見えてるとまずいんですか」

「俺は別にまずくないが、きみがまずいよ」

「そんな、死神みたいな」

「そのまさかです」

「まさかなんて言ってません」



翻訳のせいだ、とその人がぶつくさと言った時、思いあたった。

何かこの会話に現実味を感じなかった理由。

聞こえてくる声と、彼の口の動きが、微妙に合っていないのだ。

海外とのやりとりなんかで生じるタイムラグじゃなくて、動き自体が、合っていない。



「翻訳って」

「今はこのへんを担当してるけど、異動だってあるし、地域によって全然違う言葉をいちいち覚え直すなんて、無駄だろう」

「とすると、あなた自身は、どこの言葉で喋ってるんですか」

「自分の言葉だ」

「死神の?」

「当然」