うあ、と伸二さんが頭を抱えて、崩れ落ちかける。

私は、テンと名乗るこの死神が、平然としていることに驚いた。

“ありがとう”が弱点なのは、死神そのものの性質では、なかったのか。



「おっと、無理すんなよ、お前の身体には、“枷”がはまったままなんだからさ」

「お前が何を言っているのか、わからん…」



よほど心のこもった“サンキュー”だったらしく、伸二さんのダメージは大きそうだ。

ふらついたところを支えられ、悔しそうにそれを払いのけて、でもまだふらふら揺れている。



「とにかく、仕事の妨害を、するな」

「そりゃないだろ、心配してやってんだぜ、こーんな」



テンは伸二さんの額の真ん中に、長い爪を立てた。



「いじくられた脳ミソで、まともに働けんのかねえって」



伸二さんは、言葉もない様子で、愕然としていた。

日頃、不敵で傍若無人な彼のそんな姿は、痛々しくて見ていられない。


そんな中、肩をぐいと引き寄せられて、はっとした。


そうだ、林太郎。

いけない、私、変なこと口走らなかっただろうか。

ええと、とどうとりつくろうか考えた時。



「あんた、誰や」



林太郎が、固い声で言った。

守るように肩を抱く手から、緊張が伝わってくる。


えっ。


林太郎は、まっすぐテンを見て、誰や、とまた言った。

伸二さんのことは──見えていないらしい。


えっ。


テンは、にいと笑った。

伸二さんは、まだ呆然としていた。


私はといえば、震えが足のほうから上がってくるのを、どこかでとめようと必死になっていた。

林太郎、なんでこの人のこと、見えてるの。


それって。

それって…。