夕焼けの空で、カラスが遊んでいた。



「伸二さん」

「なんだ」



いつものように、どこからか瞬時に彼は現れ、人類を小バカにするように、ふわりと立て看板の上に舞い降りた。



「降りてきてもらえませんか、話したいの」

「珍しいな」



返事が聞こえてきた時には、彼はもう私の目の前にいた。

どんな物理法則に属しているのか、日中の熱い空気を押し流す風に、ふわりと髪が揺れる。

その顔は、やっぱりいつもと同じように、少し楽しげに微笑んでいた。



「今日、私に何か、しましたか」

「ずっと見ていた」

「伸二さんは、知ってたんですか、おじさんが刺したかった相手が、実咲先輩の、彼だって」

「知らなかった」



境内のどこかで、猫が喧嘩をしている。

ふ、と死神の注意がそちらに向いたのがわかった。


あきらめのような、腹立ちのような、黒っぽい感情が湧いてきた。


こんなもんか。

こんなもんか、彼の"ずっと見ている"なんて。



「どうしてあんなこと」

「なんのことだ」

「ふざけないでくださいよ、肩を叩いたでしょう、2回。私がおじさんに気づくように──」



ふいに何かが決壊して、声が揺れた。

わざと私に知らせたでしょう、残酷な事情の絡みを、目の当たりにさせるために。



「別に、知りたくなかったですよ」



憧れの先輩だったんですよ。

あんな焦点の合っていない目で、人に詰め寄ったりする人じゃ、なかったんですよ。

いつだってきらきらして、なんでもできて、私が不調で、やる気を失ったりすると、そんな時もあるさって励ましてくれて。

だるい部活も、あの人がいたから続けたようなもんなんですよ。