こんな田舎で捕り物が見られると思わなかったらしく、すげえすげえと感心している。

おい、とたしなめる相方とふたり、見ればかなり若い警官だった。



「あの」

「あ、ごめんね、もう行っていいよ、ていうか、知ってる人だったの?」

「いえ、えーと…人違いだったんですが、何したんですか、あの人」



ふたりが目を見あわせる。

現場まで見ているんだし、どうせ報道されるし、話したところで問題なしと考えたのか、まだ秘密だよ、とひとりが指を立てた。



「男を殺そうとしたんだよ、娘さんがそいつに結婚詐欺にあって、自殺しちゃったんだって、仇をとろうとしたんだ」





通りに戻ると、やっぱり先輩はもう、いなかった。

念のためと思い、付近を探し、コンビニの横をのぞいたところで、正面から腕をものすごい力で引っ張られ、思わず悲鳴をあげた。



「江竜、あたし、あたし」



地べたにぺたんと座り、こちらを見あげているのは、蒼白な顔をした実咲先輩だった。

悲鳴をあげた私よりも、よほど何かに怯えているようで、ぶるぶると震え、立ちあがれそうにない。

あはは、とつやを失った長い髪をかきあげて、笑う。



「やばいわ、腰抜けた、さっきパトカー来てたの、見た? 一台だけ、サイレンも鳴らさないでさ、なんか怪しいよね」



万引きとかかな、と忙しなく喋る先輩に、昔の面影はなかった。

現実を見るのをやめてしまった、うつろな目。



「…先輩」

「ごめんね、あたし、ちょっと休んでから帰るわ、江竜はここでバイバイしよ」

「先輩の、彼氏さんて、入院されたんですよね」



そーだよ、と怖いほど軽い返事が来る。



「病気とか事故とかじゃなくて、もしかして」



怪我、ですか。

やっとのことで、そう言うと、先輩はメイクばかりが際立つ、生気のない瞳を見開いて。



「何か知ってんの、江竜」



私の腕に、爪を食いこませた。