(ん…?)



十字路を、村に入るほうへ曲がろうとした時、目に入った人影に、視線が吸い寄せられた。

遠くて、青いジャンパーと黒いキャップくらいしかわからないけど、たぶんそうだ。



「あっちゃん?」

「先に行ってて」



片手が不自由なせいか、歩きかたも少しぎこちないうしろ姿がぐんぐん近づく。



「ねえっ、おじさん、道間違えてない?」



跳び跳ねるように振り向いたのは、やっぱりあの時の人だった。



「こっち行っても、何もないですよ、駅なら反対だし、村はあの道を…」

「あっちゃん!!」



何大声出してんのよ、と林太郎を振り返ろうとした時。

背中のあたりに、息が詰まるような衝撃が来た。


あっ、このまま倒れたら、ミサキ号が傷ついちゃう。

そんなのが、最後の思考。





耳障りな音がする。

錆びついた扉を、無理やりこじ開けるような。


埃っぽくて、真っ暗だ。

ほっぺたが何かざらざらしたものに当たって、痛い。

この固さと肌触りは、知ってる。

土嚢だ。



「っこらしょ」



突然聞こえた人の声に、はっと身体を起こそうとしたら、うまくいかず、また麻の袋に倒れこんだ。

どうも肩から先が鈍く痛むと思ったら、うしろ手に拘束されているらしく、動かせない。


扉らしい隙間から、外の明かりがかすかに見える。

もう夜なんだ。