居心地の悪さにひとりで顔を赤らめる私を、向かいのソファに座った伸二さんが楽しげに見て、ふと風向きを確かめるみたいに、顔を上げた。
「母親が目を覚ましたぞ」
「わかるんですか」
「俺を誰だと思ってる」
「変わった会社の従業員でしょう、それで、母は元気なんですか、話せますか」
「また寝た」
「………」
お母さんは、林太郎の指示どおり、山道に車を飛ばしてくれた猪上さんによって、ただちに発見された。
側溝の中で、身体を横たえて、すやすやと眠った状態で。
奇跡のように、コンクリートの溝の底にたまった泥の上に落ちたおかげで、ほとんどどこも痛めておらず。
ただ、泥の上を楽しく転げまわったらしく、目を覆いたくなるほど汚れている、と猪上さんは電話をくれた。
『タオルとか着替えとか、用意しといてくれよ、病院の手続き済ませたら、そっちに迎えに行くから』
その時の安堵は、言い表せない。
林太郎と深い息をついて、笑った。
母の目が覚めるまで病院で待つと言った私に、林太郎は当然のようにつきあってくれて。
猪上さんは、また来ると言って一度帰った。
「そんな能力まであるなら、もっと早く母の居場所、教えてくださいよ」
「訊かれてもないのに、どうやって教えろと」
「こっちの訊きたいことくらい、わかりそうじゃないですか」
「無茶を言うな、俺たちだって万能じゃないんだ、第一そんなことができたら、情報過多で身動きがとれない」
まあ、そうですねと渋々納得した。
そうか、万能ってわけでもないのか。
その時、林太郎がまた身じろぎをした。
私の座高が足りないせいで、寝づらいに違いない。
私はソファに座りなおして、林太郎が楽に寄りかかれるように姿勢を正した。
静かに目を閉じている顔を、視線で起こしてしまわないように盗み見る。
林太郎の寝顔なんて、何年ぶりだろう。
「母親が目を覚ましたぞ」
「わかるんですか」
「俺を誰だと思ってる」
「変わった会社の従業員でしょう、それで、母は元気なんですか、話せますか」
「また寝た」
「………」
お母さんは、林太郎の指示どおり、山道に車を飛ばしてくれた猪上さんによって、ただちに発見された。
側溝の中で、身体を横たえて、すやすやと眠った状態で。
奇跡のように、コンクリートの溝の底にたまった泥の上に落ちたおかげで、ほとんどどこも痛めておらず。
ただ、泥の上を楽しく転げまわったらしく、目を覆いたくなるほど汚れている、と猪上さんは電話をくれた。
『タオルとか着替えとか、用意しといてくれよ、病院の手続き済ませたら、そっちに迎えに行くから』
その時の安堵は、言い表せない。
林太郎と深い息をついて、笑った。
母の目が覚めるまで病院で待つと言った私に、林太郎は当然のようにつきあってくれて。
猪上さんは、また来ると言って一度帰った。
「そんな能力まであるなら、もっと早く母の居場所、教えてくださいよ」
「訊かれてもないのに、どうやって教えろと」
「こっちの訊きたいことくらい、わかりそうじゃないですか」
「無茶を言うな、俺たちだって万能じゃないんだ、第一そんなことができたら、情報過多で身動きがとれない」
まあ、そうですねと渋々納得した。
そうか、万能ってわけでもないのか。
その時、林太郎がまた身じろぎをした。
私の座高が足りないせいで、寝づらいに違いない。
私はソファに座りなおして、林太郎が楽に寄りかかれるように姿勢を正した。
静かに目を閉じている顔を、視線で起こしてしまわないように盗み見る。
林太郎の寝顔なんて、何年ぶりだろう。