「合掌鳥居やな」

「だよね、これって全国でも、そう多くないんでしょ」



林太郎がうなずく。

この地域ではポピュラーな鳥居の形状で、笠木の上に、木材が手を合わせているみたいな、三角の装飾がある。



「まっすぐな道にあって、車で“下を通過”できるくらい大きな合掌鳥居っていったら」

「あこやな、山道の入口の、大鳥居」



やっぱりそう思う? と食いつく私の横で、林太郎が携帯をとり出した。

手早く番号を呼び出して、猪上さん? と呼びかける。



「僕やけど、山王さんへ続く道、あるやろ、そこに行ってほしいんや」

「ちょっと林太郎、まだ、ほんとかどうかもわかんないのに」



慌てる私を片手で制して、林太郎は冷静に話をつけて、電話を終えた。



「僕らが行くには遠すぎるで、まずは、車で向かってもらお」

「でも、いきなり消えたとか、この話、どこまで本当か」



林太郎は笑いもせずに、首を振る。



「ミゾやと思う」

「え?」

「あの道の両端には、深い側溝が走ってる、おばさん、たぶん、そこに落ちたんや」

「あっ…」



血の気が引く思いがした。

そうだ、なんで思いつかなかったんだろう。

あの道には山からの水を逃がすため、大人の背より深い側溝が掘られて、草に隠れてる。

近隣の子供が、小さな頃から、絶対に近づいちゃいけないと教えこまれる場所だ。



「それで、消えたように見えたってこと…」