携帯を持つ手に、力が入った。
最新の小説は、不思議な女性に遭遇した、あるドライバーの話だった。
その人は、大きな鳥居のそばで、ふわふわと漂うように歩く、女の人を見つける。
炎天下、日傘も持たず、帽子もかぶらず、だけど楽しげにひとり歩く女性に、ドライバーである男性は声をかけた。
『どちらへ行かれるんですか』
▼
くるんと振り返った女性は、透きとおるような白い肌に、可憐な顔立ちで、現実のものではないように思えた。
ドライバーの心音が高鳴ったのが、トワにはわかった。
女性は小鳥のように首をかしげ、訊き返す。
『ごめんなさい、なあに?』
『いや、どちらへ行かれるのかなと。同じ方向なら、乗りませんか、暑いでしょう』
言ってから、変な誘いと勘違いされたらまずいと思ったのだろう、慌てたドライバーをよそに、女性はふわりと右手をあげて。
延々とまっすぐ続く道の先を、ぼんやりと指さした。
『あっちのほうへ、行くんです』
『山の上ですか?』
『歩いて行きます』
とんちんかんな答えに戸惑う。
女性はにっこりと微笑んで、車の窓から離れていった。
『こんなにいい天気なんだもの、でも気にかけてくれて、ありがとう』
真っ白な腕を、日光を抱きしめるみたいに広げて。
またふわふわと歩き出した彼女を、夢を見ているような心地で、ゆっくりと追い抜かしたドライバーが。
ふとバックミラーをのぞいた時には、女性の姿は、どこにもなかった。
▲
夏の日のメルヘンて感じの一幕だ。
これを母だと思ったのは、日付と女性の特徴が一致したからってだけじゃない。
ノベルの中にある、鳥居の描写のせいだった。
“横木の上に、三角屋根のある、一風変わった鳥居”
最新の小説は、不思議な女性に遭遇した、あるドライバーの話だった。
その人は、大きな鳥居のそばで、ふわふわと漂うように歩く、女の人を見つける。
炎天下、日傘も持たず、帽子もかぶらず、だけど楽しげにひとり歩く女性に、ドライバーである男性は声をかけた。
『どちらへ行かれるんですか』
▼
くるんと振り返った女性は、透きとおるような白い肌に、可憐な顔立ちで、現実のものではないように思えた。
ドライバーの心音が高鳴ったのが、トワにはわかった。
女性は小鳥のように首をかしげ、訊き返す。
『ごめんなさい、なあに?』
『いや、どちらへ行かれるのかなと。同じ方向なら、乗りませんか、暑いでしょう』
言ってから、変な誘いと勘違いされたらまずいと思ったのだろう、慌てたドライバーをよそに、女性はふわりと右手をあげて。
延々とまっすぐ続く道の先を、ぼんやりと指さした。
『あっちのほうへ、行くんです』
『山の上ですか?』
『歩いて行きます』
とんちんかんな答えに戸惑う。
女性はにっこりと微笑んで、車の窓から離れていった。
『こんなにいい天気なんだもの、でも気にかけてくれて、ありがとう』
真っ白な腕を、日光を抱きしめるみたいに広げて。
またふわふわと歩き出した彼女を、夢を見ているような心地で、ゆっくりと追い抜かしたドライバーが。
ふとバックミラーをのぞいた時には、女性の姿は、どこにもなかった。
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夏の日のメルヘンて感じの一幕だ。
これを母だと思ったのは、日付と女性の特徴が一致したからってだけじゃない。
ノベルの中にある、鳥居の描写のせいだった。
“横木の上に、三角屋根のある、一風変わった鳥居”