林太郎が遠くに引っ越すまでは、お互いの家を好きに行き来して、しょっちゅう泊まって、同じ布団で寝た。

もっと小さい頃は、お風呂だって一緒に入ってた。


でも林太郎が村に戻ってきた時には、お互い中学生だったこともあって、そんなつきあいではもちろんなくなっていて。

でもやっぱり、お向かいさんで、幼なじみで。

外の子たちと比べたら、一番近い存在だと思うこともあるし、けど小学校時代をまったく一緒に過ごさなかった欠落もある。


今じゃもう。

家に来いってひと言に、こんなに緊張する始末。



「でも、おじさん、いるんでしょ」

「ううん、今日は帰ってこんで」



不思議なことに私は、林太郎のお父さんが、昔からひそかに苦手だった。

声も身体も大きくて怖かったのもあるし、林太郎と全然似ていないので、どう接したらいいかわからなかったのもある。

だから、いないと聞いてほっとしたのもつかの間、てことはふたりっきりってことじゃん、と気づいた。

目が合った林太郎は、暗がりでもわかるほど赤くなる。



「別に、変なつもりや、ないで、大町(おおまち)さんやって、いるし」

「わかってるよ」



大町さんていうのは、お手伝いさんだ。

離れに住んで、昔からあの一家の面倒を見ている。



「でも、やっぱりいい」



首を振ると、林太郎はほっとしたような、でもやっぱり少し、傷ついたような顔をした。



「ほうか」

「林太郎が、うち来てよ」



え、と目を丸くする。



「お母さんが帰ってくるかもしれないから、私はうちにいないと。だから林太郎が来て」



夜は、心をさらけ出せる時間帯らしいから。

私も少しくらい、本音を出したって自分を許せるだろう。