「──あっちゃん」

「聞きたくない」



はっと私を見た林太郎は、揺れた目をしてた。

傷ついたような、悔やんでるような。

恥ずかしそうな、悲しそうな。



「僕な」

「聞きたくないって」

「なんやの、僕が何言うかも、知らんくせに」

「知ってるって」

「ほんなら、言ってみてや」

「私、帰る」

「あっちゃん!」



逃げ出そうとした腕を、つかまれた。

夢中で振りほどいた。

林太郎相手に、こんなに必死になったのは、たぶん、初めてってくらい。


だって怖いくらい、力が強くて。

傷のある腕は、骨ばった男の子の形をしていて、それは私の中の林太郎とは、全然違って。

まっすぐな瞳は、見あげる高さにあって。



「あっちゃん、逃げんな、ずるいが」

「うるさい、ついて来るな」

「ずるいが、あっちゃんは、ずっとそうや」



草むらに寝かせていた自転車を引っぱり起こして、林太郎の声を振りきってこぎだした。

人のいい林太郎は、それ以上追っては、来なかった。

けど、背中に刺さるような声で、叫んだ。



「ずっとそうや、僕のこと、ちゃんと見てくれん、なんでやの」



こんな時には、泣きそうな声で訴えるばかりだった、私の記憶の中の、ちっちゃな林太郎。

弱虫で泣き虫で、いつもあとをくっついてきてた。


でも、もう全然違う。

林太郎は毅然と、私を問いただしてた。


──なんでやの、あっちゃん。