「いい奴や、ちーちゃん、見る目あるのぉ」



自分のことでもないのに、にこにこと嬉しそうにする林太郎の二の腕に、真新しい擦り傷を見つけた。

洗い流してもいないらしく、土で汚れているその傷をそっとさわると、林太郎がびくっとする。



「ん、傷んなってる?」

「けっこうひどいよ、気づいてなかったの」



林太郎が、二の腕の外側をのぞきこんで、ほんとや、と小さく声をあげた。

これで気づかないって、どれだけ鈍いの。



「綺麗にしないとまずいよ」

「いいよ、汚れるで、さわらんといて」



もう、こんな時に何言ってんだか。

飲んでいたペットボトルの水を、ハンカチに含ませて、嫌がる林太郎の腕にあてる。



「痛いが」

「だから、それだけのケガなんだって」

「いいって、やめてや」



手を振り払われた拍子に、ペットボトルが飛んだ。

私のスカートの上に倒れて落ちて、半分以上残っていた水が、プリーツの間にみるみる溜まる。



「あっ、ごめん」



林太郎がとっさに手を伸ばした、その先には私の手があった。

ほぼ同時にペットボトルをつかんだ手は、重なった。

林太郎の手は、びっくりするほど熱かった。


水は結局、全部流れ出てしまい、私は布を通して脚へと冷たさが染みてくるのを感じていたけれど。

スカートの上で、つまりは私の脚の上で、林太郎がペットボトルごと私の手を握っているので、動こうにも動けず。


ひぐらしの鳴き声がした。

風が吹いて、頭上の葉を揺らした。


うつむく林太郎の横顔が、いつもながら上品に整っているなと眺めていたら。

ぎゅっとその手に力がこもって。

喉が、こくりと動いたのが見えた。