「そうなんですか」

「残念そうな口ぶりだな」

「冗談やめてください」

「俺は冗談を言わない」

「冗談やめてください」



存在自体が冗談みたいなもののくせに。

気分を害すかと思われた伸二さんは、その表現が気に入ったらしく、嬉しそうに何度もくり返していた。





「新、おっはよ、更新分のノベル読んだ?」

「読んだ、てかそのおかげで生物のレポートしあげるの忘れたの、今気がついた」

「あらら、手伝うわ」



智弥子が長い髪を、耳にかける。

その仕草がうらやましくて、髪を伸ばそうかなと何度も考えたことを思い出した。

結局、部活の時に邪魔じゃないよう結べるくらいの長さになるまでがこらえどころで。

私は挫折をくり返して、ずっとボブのままだ。


一度くらい、伸ばしてみればよかった。



(なんだかなあ)



人が人生の終わりに、悔やむことなんて。

こんなくだらない、小さなことばかりなんだろうか。



「そういえば新、夏祭り、行く?」



私の中途半端なレポートを眺めながら、智弥子が言った。

答えを用意していなかった自分を、心中で罵った。

出て当然の話題だ、バカめ。



「あー、えっとね」

「実はねあたし、もしかしたら一緒に行く人、いるかもしれないんだ」



…ほほう。

照れ笑いをする智弥子は、朝のバスで行き会う男の子に、ずっと片思いしていた。

軽そうに見られがちな外見に反して、智弥子にはそういう純情なところがある。